法学 誠実団交の義務と団交拒否の正当理由

  誠実団交の義務と団交拒否の正当理由
1 誠実団交の意味
 会社において、労使間の各種の問題を解決する中心的な方法は、伝統的に団体交渉である。米国のタフト・ハートレー法は「団体交渉とは、賃金・労働時間その他の雇用条件または労働協約もしくはそれについて発生する問題の交渉および成立した合意を記載した協定書の作成に対し、一方の当事者の要求がある場合に、使用者と被用者代表が適当な時間会合し、誠意を持って協議するという相互の責務の遂行をいう。ただし、この責務はいずれかの当事者についても、これを強制して提案に同意せしめ、又は譲歩せしめるという意味のものではない。」(8条)と規定し、使用者・労働者に対して、団交拒否を不当労働行為として禁止している。


《 団交は利益代表者の合意であることから、誠実な過程が重要視されます 》

このため、当事者双方は誠意をもって交渉することが求められ、これを誠実団交の義務といい、団交を運用する上で重要な概念となっている。
  一方、わが国では、団交権保障の具体化として使用者は「雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を禁止する(労組法7条)。このため使用者の団交拒否の正当性の有無が問題となり、その前提として団交応諾義務が議論となっている。

2 団交拒否の問題点
  誠実団交の義務と団交応諾義務は区別してとらえるより、部分的に重複した概念として用いられる場合が多い。  誠実団交の義務は交渉の進展に関わる実質的要件、つまり交渉の仕方・内容・経過など交渉態度や交渉経過に注目する概念である。この点を強調する理由は、交渉の形骸化によって団交権の保障が事実上無意味になるからである。
  ここで、誠実団交の義務違反を団交拒否とみなす場合、次の3つの問題点が考えられる。
(1)命令・判決を通じて国家がどこまで当事者間の交渉内容に実質的に関与できるのか。
(2)「誠実さ」の認定基準を一義的に設定するのはむずかしく、客観的統一的に事務処理ができない。
(3)交渉は当事者間の相互行為であるが、使用者の行為のみを禁止する法律のもとで組合の対応をどのように位置づけるかである。
 わが国においても団体交渉の成熟化により、団交拒否の事案が誠実団交問題に移行しつつあり、判例の傾向でうかがい知ることができる。

3 使用者の誠実な態度
  団交における使用者の態度としては、昭和61年.3.17奈良地労委・栄タクシー事件は「使用者自ら出席するか、あるいは使用者から交渉を進めるに十分な権限を委譲された者が出席し、かつ交渉の過程においては組合の要求事項を十分検討し、また、自己の提案については、その具体的根拠を明らかにして、その合理性、正当性を相手方である組合が理解し得るように説得し、納得させるべく十分な努力を尽くすことが必要」とする。
一方、昭和62年の埼玉地労委・理化学研究所事件では「使用者が誠実に交渉したか否かは、その目的・内容・経過及び当該労使間の諸般の事情を斟酌しながら、具体的な事実関係を総合的に判断することを要し、基本的には交渉において実質的な論議がどのようになされたか、使用者が合意・協定締結への真摯な努力をしたか否かが判断されなければならない」としている。

4 判例に見る不誠実な態度
  命令にみる不誠実団交の現れとしては、一方的な開催条件・交渉ルールの固執、具体的根拠を欠く説明、相手の要求を聞こうとしない態度、決定・解決済み態度に固執、不正確・虚偽の発言、矛盾した理由、回答の遅延などである。
合意事項を協定化することは団交の当然の帰結であるから、これを拒否することは誠実団交義務に違反する。また、交渉を尽くしたことを理由とする団交拒否は、既に交渉が重ねられているとしても、実質的内容について交渉が尽くされたと認められない場合は勿論、既に交渉が打ち切られた事項についても使用者の不誠実な対応のために打ち切られた場合は、このような理由に合理性はない(昭和62年東京地労委カール・ツァイス事件)。
しかし、十分な交渉が尽くされたものとして打ち切られた後の団交の申し入れは、格別の状況の変化があったとの疎明がない場合、または仮に団交が行われたとしても従前と同様の経過をたどると十分に予想される場合には、同一議題について交渉拒否することは不当ではない(昭和63年兵庫地労委・エッソ石油事件)。
  また、複数組合がある場合、交渉態度等に合理的理由なく差別的取扱いをすることは許されないであろう。

5 誠実さの結果
 団交は、労働者が団体として使用者と交渉する権利であり、協定は契約であって対等な立場で交渉が行われるべきである。しかし、使用者が圧倒的に強い現実においては、団交は形骸化により団交権の保障が事実上無意味になるおそれがある。
  本来、関心があるべきは労使間の団交の結果、つまりは協定の中身であるが、お互いが合意という形式が求められるため、交渉の過程・態度において誠実さが求められ、結果として対等な協定の中身が期待されることになります。

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