法学 監査役制度の変遷とあり方

法学 監査役制度の変遷とあり方
1 概要と業務監査の分離 
監査役は、現在、会社法上公開できないもの及び委員会設置会社を除いて、取締役の職務の執行を監査する、常設機関である(会社法326条2項及び328条1項。会社法は平成17年にできた新しい法律。それよりも前には、会社法という名の法律はなく「商法」中の会社編の規定と有限会社法があり、それらを合わせて会社法と呼んでいた)。
  監査役制度の主な変遷は6回あった。昭和25年、昭和49年、昭和56年、平成5年、平成13年そして平成17年である。


《 監査役は独任制であるが組織として監査役会があってこそ取締役会に対抗できます 》

  当初、商法は監査役について取締役の業務執行全般を監督する機関として定めていたが、昭和25年の改正は、新たに取締役会制度を採用し、取締役会が代表取締役その他業務執行の取締役を監督するものとしたことに関連して、監査役を会計監査に限定した任務を有する機関とした。業務監査をもっぱら取締役会に委ねることにし、取締役会の自由な業務執行を認めつつ、同時に自主的な抑制・監督を期待するものであった。
  しかし、その取締役会は、実際には法の期待するような機能を発揮せず、証券取引法が上場会社等について定めている公認会計士または監査法人による財務計算書類の強制監査制度との整合を図る必要が生じ、改正の時期をさぐることとなる。
 
2 倒産から学ぶ監査制度の充実(昭和49年改正)
  監査制度について、商法は昭和49年に大幅な改正をした。この改正の直接の契機は、昭和40年前後に発生した山陽特殊製鋼事件をはじめとするいくつかの倒産事件である。これらの事件では、会社側が債権の過大あるいは債務の過小を計上する等の手段により、利益を不正に多く計上していたにもかかわらず、監査役が株主総会で違法な計算書類を元に会社の会計を適正・妥当と報告していた。このため、監査制度について各方面から強い批判が加えられ、監査制度の充実を求め商法が大幅に改善された。
  昭和49年の改正について、まず指摘できることは株式会社を規模により大会社・中会社・小会社に分けて監査制度の内容を区別したことである。商法改正と併せた昭和49年の「株式会社監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)では、主として監査制度について、商法特例法上の大会社・小会社に関し商法上の特例を規定したのである。それによれば、大会社は資本の額が5億円以上の株式会社とされ、小会社は資本の額が1億円以下の株式会社となる。このため、(1)大会社、(2)小会社、(3)どちらにも属さない会社=中会社となり、それぞれ異なった監査制度が適用されることとなる。
  昭和49年の改正の要点は、第1に監査役の権限が強化されたことである。それまで監査役は会計監査に限られていたが、小会社を除き監査役は取締役の業務全般に対する監査権限を持つこととされ、それに伴う各種の権限及び各種の訴提起権が認められ、監査役に対する取締役の報告義務等が規定された。また、すべての監査役に認められた権限として、子会社を調査する権限、取締役に対し報告を求める権利が挙げられ、さらに監査の充実のため監査期間の延長が規定された。
  第2は、監査役一般の地位が取締役会または代表取締役から独立するための規定が強化されたことである。つまり、監査役の任期が延長され、その任期の短限も規定され、さらに監査役の選解任について意見を述べる権利が認められることとなった。
  第3に、大会社において、監査役監査に加えて会計監査人という外部の人間による会計監査が強制されることである。以前から、証券取引法上では上場会社等が大蔵大臣に提出する財務諸表について公認会計士または監査法人の監査証明が要求されていたが、改正後は商法上の制度として株主総会での報告が規定されることとなった。

3 ロッキード事件及びダグラス・グラマン事件を契機とする自治機能の強化(昭和56年改正)
  昭和56年の改正も、昭和51年のロッキード事件、昭和53年のダグラス・グラマン事件等の会社資金の不正支出という事件が発覚した結果、会社の自治機能を高めるために、再び監査制度の改正がなされた。
  第1に、監査役の報酬と監査費用の規定が設けられたことである。昭和56年改正前は、監査役について取締役の報酬に関する規定が準用され、定款でその額が定められていない時に、株主総会の決議で定める旨が規定されているに過ぎなかった。実務上は監査役の報酬は取締役の報酬と一括して、役員報酬として総会で決められるため、実際には取締役会あるいは代表取締役の意志に左右される危険性があった。しかし、改正により取締役に関する規定の準用はやめ、独立の規定を設けて監査役の独立性を保障しようとした。
  また、監査役が監査に要する費用は、改正前は特に規定はなく、委任事務費用に関する民法の規定(649条および650条)が適用されていた。そのため、監査役はその費用が必要である旨を挙証しなければならず、十分な監査費用が得られなかった。
  しかし、改正により、挙証責任は企業側に転換され、不必要と立証しない限り会社は費用負担をすべきこととなった。
  第2に、監査役の取締役会招集権および監査役の取締役会における報告義務の規定が設けられたことである。
  取締役会で、法令・定款に違反する決議または著しく不当な決議がなされることを防止するため、昭和49年の改正により、監査役は取締役会に出席して意見を述べる権利が与えられた。それに加えて、昭和56年改正で不当な決議をし、またはするおそれのある時は、監査役は取締役会で報告する義務を負った。この報告義務に基づいて取締役会において、その業務執行の監督権による適切な措置を講ずることが期待された。
しかし、取締役会が開催されなければこの報告をすることができないので、監査役に対して、この報告をする必要がある場合に取締役会の招集をする権利を認めた。
  第3の改正点は、大会社について監査役の人数を2人以上でなければならず(複数監査制度)、またその内から監査役の互選で常勤監査役を定めなければならない(常勤監査制度)との規定を設けた点である。

4 監査役の機能強化(平成5年改正)
  平成5年の改正は、監査制度を強化しその実効性を一層高めることを目的とした内容である。主な改正点は4つある。
  1つは、従来、就任後2年以内の最終決算期に関する定時総会終結の時までとされていた監査役の任期が就任後3年以内となったことである。これはすべての株式会社の監査役に共通する改正点である。
  2つ目は、大会社について監査役の必要人数を2人以上から3人以上に引き上げたことである。
  3つ目は、社外監査役の制度を新設し、大会社の監査役のうち、少なくとも1人はその就任の前5年間またはその子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者(社外の者)とした。
  4つ目は、大会社では監査役の全員で監査役会を組織したことである。従来も大規模会社においてしばしば任意的に監査役会が設けられていたが、改正により監査役会を大会社の必要的機関として法定したこととなる。ただし、この改正の下でも、監査役の各自が独立の機関として業務担当することに変わりなく、独任制の利点を残しつつ、組織化することにより監査業務の効率化を図ったと言える。

5 監査役の権限強化(平成13年改正)
次に平成13年の改正は、大きく2つ改正点がある。第1に、監査役の権限強化である。具体的には、監査役任期を就任後4年以内とし、従来の3年から伸長した。これにより、任期が取締役(2年)の倍となり、経営者からの監査役の独立を強化した。
  また、社外監査役は、大会社の監査役の人数について3人以上とし、1名以上は社外監査役でなければならないとしていたが、改正では社外監査役の人数を半数以上に増員した。
  さらに、社外監査役の要件について、改正では就任前5年間会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人でなかった者とされていたが、改正では5年が撤廃され、実質上就任前一切の会社との雇用契約が必要なくなった。
第2は、監査役の取締役会への出席義務・意見陳述義務が明記された点である。監査役の取締役会への出席・意見陳述の権利は、従来から定められていたものの、あくまで権利として定められていただけで、義務としての明文上の根拠はなかった。しかし、解釈上は監査役の善管注意義務等を根拠として、当然義務あるものと認められていたが、改正で、法律上明文化された。

  6 会社法成立 任意設置機関となる(平成17年改正)
平成17年改正では、商法の会社法部分の改正があまりに多く、整合をとるため会社法が分離独立した。商法旧会社編、商法特例法上の規定は廃止された。監査役は、原則として会社の定款によって任意に設置される機関となった(326条2項)。ただし、取締役会設置会社と会計監査人設置会社には設置しなければならない(327条2項3項)。
  設置した場合の人数には原則として制限はないので、1人以上いればよい。しかし、監査役会設置会社には3人以上おくことが必要であり、うち半数以上が社外監査役でなくてはならない(335条3項)。監査役を設置する会社のうち業務監査権を有する監査役を設置する会社のことを、監査役設置会社という(328条1項)。

7 監査役の妥当性監査の限界
  監査役制度のあり方を考える場合、監査役が業務執行に関する監査機関であることと関係して、取締役会が業務執行に関する監査機関であるということが問題となる。この点に関して、取締役の監督権限は業務執行の適法性だけでなく、その妥当性にも及ぶことに異論はないが、監査役の監査権限がその適法性監査には及ぶが、妥当性監査に及ぶかどうかが問題とされる。
  たとえば、企業が新しい事業を始めたり、海外進出する場合、取締役会はその時期や場所が妥当かどうかを判断する権限を有し、妥当でないと判断すれば取締役会として実施しないことを決定できるが、監査役がこのような妥当性について監査権限を有するかどうかについて、意見が分かれる。
  これを肯定する見解は、会社法390条2項あるいは404条2項の規定上、監査役の監督権について適法性監査に限られる旨の制約がないことを根拠とする。 
  しかし、業務執行に関する決定は取締役会の決議(369条1項)によってなされ、監査役はそれに参加できないのであるから、それが妥当であるかどうかは取締役の判断に委ねられていると解すべきである。したがって監査役の権限はそこまで(業務執行の妥当性まで)は及ばないと解される。

8 監査役制度の新しいあり方-内部的リスク回避機関-
監査役制度のあり方については、会社と国家とを相似的に見て、三権分立での司法の働きを期待する意見がある。しかし、公共の福祉を目的とする国家と、大会社とはいえ営利を目的とする企業では判断基準が異なるのは当然であって、適法性の意味では監査役の権限は司法に比べて限定されると言える。
  平成5年に監査役会が法制化され、組織として機関化(390条1項)したことは大きな意味があると思う。監査役が独任制であることに変わりはないが、会社の業務の決定が事実上の取締役会という組織の決議で決まるわけで、これを監査する監査役が個人としての権限に限定されては会社という組織の中では対抗し得ない。組織においては、意志決定における手続きが重要視されるのであり、監査役会が決議手続きを有する意味は大きい。
  また、企業の責任を考える時、民法の過失責任の原則がゆらぎつつあり、大会社になるほど業務自体が法の対象として裁判になることが多く、無過失責任を判示される場合も増えている。その意味で会社の業務執行に伴うリスクに対し、保険制を負荷する必要も増しており、監査役制度の新しい役割がその保険の前置制度の働きを持つと期待します。

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