考察 行政指導のあり方 有用な規制方式

 行政指導のあり方 有用な規制方式
1 行政指導は有用な方式
1 国の環境規制法の執行は都道府県知事(または政令市の市長)の自治事務とされていますから、その具体的な執行は都道府県知事の権限です。公害施設設置の届出の受理、計画変更命令、施設の改善勧告あるいは改善命令、立入検査など都道府県知事には、法令により、環境規制の多くの権限が付与されています。

 また、多くの地方公共団体は国の法律を補完していっそうきびしい規制措置を盛り込んだ環境保全条例を定め、地方公共団体の長に独自の規制権限を与えています。地方公共団体の長は、このように環境行政の最先端の機関として、法律および条例により多くの監督・規制上の権限を行使しうる地位におかれています。

 しかし、法律(または条例)上の権限があるにかかわらず、環境行政の現場において、施設の改善命令等の法的措置が正式に発動される例は、きわめてまれです。違反行為に対し罰則が適用されるなどの事例は、悪質な若干の違反例を除くと、ほとんど見当たらない状況です。



《 環境規制には行政指導は非常に有効です 》

2 では、環境規制の実態はどうなっているのでしょう。たいていの場合は、法的な強制措置がとられる以前に、都道府県の環境担当者が工場側と話し合って施設計画を変更させたり、住民からの苦情に基づいて工場施設や操業方法の改善を勧告し、事態の解決をはかっているのが実情です。つまり、行政庁が工場等が法律違反の状態にあるのを発見した場合には、正式に規制命令等を発することなく、事前に、まず技術的な助言をしたり、ときには警告を発したりして施設の改善を促し、違法状態の解消を図っています。

 こうした法律上の権限行使に先立ち、それに代わる行政指導を、代替的事前指導といいます。環境行政の現場においては、大部分の違反事例は、代表的事前指導によって解消されるのが実態です。

3 しかし、環境行政における行政指導は、法律上の規制権の範囲内で規制措置の発動に先立って行なわれる代替的事前指導だけではありません。むしろ、法律や条令による正式の規制を補足したりこれを前進させて、より実効的な公害規制を果たすために、法律の予想しない、きびしい対策を求める行政指導が実施されることが多くあります。こうした上乗せないし横出し対策を促す行政指導を、ここでは規制強化的行政指導と呼んでおくことにします。

 規制強化的行政指導は、行政機関が発生源に対し個別的に技術指導や改善勧告のかたちで実施するのが通常です。しかし、地方公共団体が要綱などのかたちで一般的な指導基準を作成し、地域内の事業者に対し一律にその遵守を求めることもあります。いわゆる要綱行政であって、環境行政上の規制手段として今日重要な地位を占めています。

2 行政指導の効用
 環境行政において、好んで行政指導が用いられるのは、なぜでしょうか。
1 まず、代替的事前指導が行われる理由としては、第一に、行政処分としての改善命令はその性質上、公害発生施設のばい煙等の排出量を「法定の排出基準値以下にするよう改善しなさい」という抽象的な内容で発動される場合が多いが、このような抽象的な命令は事態を収拾するのには不適切です。むしろ行政当局と企業が実現可能な具体的対策(たとえば、バグフィルター(集じん機)をつけるとか、煙突の集合・高煙突化をはかるとか、工場の配置を変更する等)を協議した方が、容易に妥当な解決に到達できる場合が多い。公害対策のような科学行政においては、技術指導がきわめて重要と言えます。

 第2に、改善命令等の行政措置には、前述したように、その履行を担保する強制権限が十分でないから、行政指導とは別に正式な改善命令を発してみても、あまり実効的ではありません。ただいたずらに当事者間の関係を敵対的・硬直的なものとするだけのこともあります。環境の監視のような継続的恒常的な監督関係においては、指導によって当事者間に友好関係を維持する方が、かえって監視が円滑に実施でき、規制目的を達成するのに効率的なことが多いといわれています。こうした事例が正規の規制命令の発動を回避させ代替的事前指導を多用させる理由となっています。

2 つぎに規制強化的行政指導が多用されている理由としては、第一に、法律や条令による一律規制では地域の環境保全に不十分であって、公害を防止し快適な環境保持のための地域の特性や企業の個性に応じ個別発生源ごとにそれぞれふさわしい規制対策を強力に講ずることが必要な場合があります。上乗せないし横出し的指導が行なわれるのは、発生源の種類・態様に応じて地域の環境保全にふさわしい妥当な技術的対応を弾力的に実施させようとするところに理由があると言えます。

 もう1つの理由は日進月歩の科学技術を環境規制にとり入れ、新らしい規制方式を開発するには、それを法制化する前に、実験的な運用を試みることが必要な場合があります。地方公共団体が要綱などによる指導を通じて試行錯誤の一過程として新しい規制方式(たとえば、総量規制方式の導入など)の運用を試みることが多いが、こうした試みは従来も規制技術の先取りとして環境行政の前進に大いに役立ってきた点でした。
 これらの諸事情を考えると、地方公共団体が法律や条令による規制を補う手段として、要綱その他の行政指導によって環境規制を行うことは、十分合理性が認められることになります。

3 行政指導と法治行政
1 環境行政の分野では、代替的指導や規制強化的指導が多用されており、それらが必要とされる理由について述べましたが、このような見解に対しては、法治主義論の立場からの異論も多く出されています。

 まず、もっとも厳格な論者は、法律上、権力的な取締権限が備わっているのにかかわらず、行政庁がその権限を行使しないで、その威かくの元に行政指導を行い、同一の目的を達成しようとするのは、法律による行政の原理との関係で、問題であると主張します。また、代替的事前指導までは容認できるとする論者のなかにも、法律に何らの根拠規定もないのに、行政庁が形式上は任意の手段であるとはいえ、国民(企業)に事実上法定外の義務を強要するような規制強化的行政指導を認めることは、法律による行政の原理に反し許されないと解する論者もいます。行政法学者のなかには、こうした見解に賛同し権力的行為形式の代替物ともいうべき行政指導は、法律に根拠がなければ許されないと説く者が多い。この見解を徹底すれば、緊急時においても法律に明文の規定(大気汚染23条)のないかぎり、行政庁は行政指導によって公害防止措置をとりえないことになってしまうでしょう。

2 しかし、この法律による行政の原理は、本来、規制を受けるものの権利や自由が行政権の不当な権力行使によって侵されることのないよう、被規制者の利益の保護を第一次的な目的とする制度であるから、被規制者の側に不当な利益侵害の危険さえなければ、行政指導はあえて排斥されるべきものではないと考えます。そこで、具体的に環境行政の場面における行政庁と事業者との関係を考えると、工場施設の改善などが勧告されても、企業者が、当該施設が基準に違反しているとか、その他施設を改善すべき合理的理由を認めないかぎり、技術的知見を有する企業が勧告に従って設備の改善に踏み切るとは一般の常識からみて予想されません。企業が違法・不当な行政指導に強制されて不利益を受けることは、まず考えられないでしょう。しかし、かりに、万一、人を欺くような指導により不当な損害が生じた場合には、国家賠償の請求を許せば、企業側の救済としては十分と言えます。

 したがって、法定外の規制強化を内容とする行政指導であっても、それが、①環境保全上の合理的必要に基づくものであり、②その内容が法令の執行を妨げるようなものではなく、かつ、③その遵守を強制するものでなければ、違法とみるべきではありません。判例も、法の根拠を欠く規制的指導の適法性を認めています。(東京地判昭和54年10月8日判時952号18頁)。

3 もっとも、このようにいうことは、現在の行政指導の実情が全面的に正しい行為と認めてのことではありません。今日の指導行政の実情をみると、指導者が担当官の個人的な考えに基づいていささか恣意的に行われており、その責任の所在すら明確でないこともあります。行政指導も行政作用に属するものである以上、行政の一貫性を守り責任の所在を明確にして実施する必要があります。

 他方、地方公共団体のなかには、指導行政の無責任性をよいことにして、行政指導の形式を借りて、法律や条例を上回る強力な規制を一般的かつ組織的に実施しているところもありますが、一般的制度として恒常的に実施すべき規制措置を、すべて行政指導のかたちで実行するのは、法治主義の視点からみて、適当でありません。地方公共団の公害対策は法律や条令を基本にして実施すべきなのが本来ですから、法令に根拠を欠く規制強化的指導は法令の不備を補う補足的例外的手段としてのみ承認さるべきでしょう。具体的にいえば、①新しい公害現象に対応するための試行的な規制の試み、②条例の一律規制では実効をあげえない発生源に対する個別例外的な規制、あるいは、③法律や条令の欠陥ないし不十分さを補充・調整する緊急的対応策の実施などの場合にかぎられるべきです。地方公共団体が、一般的に適用すべき恒常的な規制対策までも、条例の形式を避け要綱等の形式により実施しようとするのは、法治行政のうえからみて妥当を欠く措置です。

 また、地方公共団体のなかには、行政指導に従うのをまるで当然のことのように考えて、指導の遵守を半ば強制しているところもありますが、行政指導は非権力的作用としてはじめて許容されるものですから、指導内容を強要することは、もとから許されません。規制を強制しようというのであれば、正式に法律または条例に根拠が求められなければなりません。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック