公害防止協定の効力に対する判例の態度

公害防止協定の効力に対する判例の態度 
1 伊達火力発電所建設等差止請求訴訟第一審判決(札幌地判昭和55・10・14)
 いわゆる伊達環境権訴訟といわれるものであって、北海道電力が伊達市長和地区に建設している伊達火力発電所に対して、地元の住民・漁民等がその建設の差し止め、操業禁止などを求めた訴訟であり、公害防止協定と住民とのかかわりが争点のひとつとなったものである。裁判所の認定によれば、被告北海道電力は昭和47年6月30日に伊達漁協との間で漁業補償協定を、また、同年7月1日、伊達市との間で公害防止協定を締結した。
 原告らは差し止め請求権発生のいち根拠として、①被告は公害防止協定に違反していると主張したほか、②予備的請求の1つとして、原告らは公害防止協定の当事者である伊達市及び伊達市の構成員であるから、当事者に代位して義務の履行を求めうるとか、③右協定はいわゆる第三者のために請求できる契約と解しうると主張した。
 判決は被告は公害防止協定に反してはいないが、予備的請求については、次のとおり判示してこれを排斥した。
すなわち、公害防止協定は、「一般的には、公害を防止して公共の利益を図るという行政目的を達成するため、行政活動の手段として用いられる特殊な法形式である。そして、公害防止協定に基づいて地方公共団体が取得する権利は、当該地方公共団体に専属し、他に譲渡することもできないし、行政主体でない他の法主体が変わって行使することもできない性質のものである」「本件の・・・・・公害防止協定も、・・・・・専ら行政領域において、法的効果が発生する余地があるにとどまる」。
  「住民と地方公共団体との関係、公害防止協定の法的性格、債権者代位権の制度の趣旨(それは、本来、債権者が債務者の責任財産の維持を図ることによって、間接的に、自己の請求権を保全しようとするものである)に鑑みれば、住民は、当該地方公共団体に属していることのみを以て、当然に、公害防止協定に基づいて地方公共団体が有している権利を自ら代位行使しうる地位にあるとはいえない」
 「伊達漁協の組合員である・・・・・原告らが、同漁協が被告との間で締結した補償協定に基づいて同漁協が有している権利を代位行使するためには、同原告らが伊達漁協に対していかなる債権を有しているかをまず主張立証すべきであるにもかかわらず、この点について、なんらその主張がない。」
伊達市と被告との間で結ばれた公害防止協定は前説示のその性格に鑑みれば、これを第三者のためにする契約と解する余地はない。
  伊達漁協と被告との間で締結された漁業補償協定は、「伊達漁協に属する個々の組合員をして直接に被告に対するなんらかの権利を取得させる合意まで含んでいるとは解せられないのであって、むしろ個々の組合員は、団体の構成員として組合からの統制に服しつつ、被告との間では、右補償協定に基づく事実上の利益を受けるという関係があるにすぎない」「したがって、・・・・・原告らが被告に対して直接かつ法律上の手段に訴えてその履行を求めることはできない」とした。

  この判決は、公害防止協定を私法上の契約とは異なる、行政目的のための「特殊な法形式」であるとし、民法上の制度の適用を否定した。そして、学説も、かかる私法的手法は、「環境保全といった公的利益の確保を目的とする契約にそのまま適用しうる地盤を欠く」とする。ただし、企業が公害防止協定に違反したという事実は、住民差止訴訟における(受忍限度の)判断の重要な要素になると解されている。

2 渥美町公害防止協定事件(名古屋地裁昭和53・1・18)
事業者と町が締結した公害防止協定の効力について、事業者は町の同意がなければ主要施設または公害防止施設の増設または変更を行うことができないという規定を、公法上の契約(行政契約説)と解する以下の判例がある。
  昭和47年7月、愛知県渥美町は中部電力㈱との間に、会社が設置した発電所に関して公害防止協定を締結した。その5条1項では「会社は、発電所の主要施設または公害防止施設の増設または変更を行う場合は、事前に町と協議して同意を得るものとする。」と定めていた。そこで、会社は発電所内に増設する際に、町に同意を求め、町は同意したが渥美町住民がその同意につき、取消訴訟を提起したものである。
住民の主張は、本件協定を行政契約と解した上で、第一に、本件協定第5条は会社に対して施設の増設をしないよう不作為義務を命じ、町の同意はその義務を免除するものであり、第二に、町の規制権限は権力的行政手段と同様の構造を持つから、同意は「許可」と同様であり、第三に、本件同意は住民にとって健康や生活環境の侵害の危険をもたらす不利益処分である、として条理上必要な手続きを経ていない違法があると主張した。
 これに対し判決は「本件協定は、行政主体たる町を一方の当事者として、地域の公害を防止し、住民の健康保護、地域全体の生活環境の保全という公共の福祉実現を目的として締結されたところの、明らかに公的性格を有するものであり、その第5条は、渥美町と中部電力において、中部電力は同町の同意を得なければ発電所の主要施設または公害防止施設の増設又は変更を行うことができないという具体的な不作為義務を定めているのであるから、本件協定のうち少なくとも第5条第1項の定めは、公法上の契約と解するのが相当である」とする。
  続けて「しかしながら、本件協定は、前示認定のとおり、特に法令上の根拠を有するわけではなく、当事者が対等な立場において任意に締結した契約に止まるのであって、公権力の行使と目すべきところは全く介在しないのである。本件同意は、このような協定に根拠を有するのみで、契約に基づく同意見の行使に過ぎないのであるから、これを公権力の行使というのは当たらない。」
 原告は、本件同意が「許可」に準ずるものであると主張したが、「本来、許可権は法令に根拠をもつ行政庁の優越的権限であるのに対し、本件の同意は相手方との合意すなわち契約に根拠を持つ非権力的行為であって、両者の間には差異があるから、これを同視することはできない。」と判示し、本件協定第5条が行政(公法)契約であると理解しながら、原告は、公法性に力点をおいて同意の処分性を主張したのに対して、本判決は契約に力点をおいて、同意の処分性を否定したのである。

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